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新潟地方裁判所長岡支部 昭和44年(ワ)124号 判決

原告

太刀川次郎

被告

堀進

ほか二名(昭和四四年(ワ)第一二四号事件)

細田一朗(昭和四六年(ワ)第一九四号事件)

主文

(昭和四四年(ワ)第一二四号事件)

一  被告堀進および同根本栄一郎は、原告に対し、連帯して、金九二万三九五七円およびうち金八二万三九五七円に対する昭和四四年七月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告堀進および同根本栄一郎に対するその余の請求ならびに被告根本美江に対する請求を、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告堀進および同根本栄一郎との間に生じたものは、これを二分し、その一を右被告両名の、その一を原告の負担とし、原告と被告根本美江との間に生じたものは、原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮りに執行することができる。

(昭和四六年(ワ)第一九四号事件)

一  被告細田一朗は、原告に対し、金八二万三九五七円およびこれに対する昭和四六年九月二五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の、その一を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(昭和四四年(ワ)第一二四号事件)

一  原告

(一)  被告堀進および同根本栄一郎は、原告に対し、連帯して、二〇三万八九五〇円およびうち一七三万三八七〇円に対する昭和四四年七月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告と被告根本美江との間において、被告根本栄一郎と被告根本美江間において別紙物件目録記載の各不動産についてなした昭和四四年三月三〇日付贈与契約は、これを取り消す。

(三)  被告根本美江は、原告に対し、別紙物件目録記載の各不動産についてなされた新潟地方法務局亀田出張所昭和四四年五月七日受付第二三一五号の贈与を原因とする所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

(四)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(五)  第一、四項につき仮執行の宣言。

二  被告ら

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

(昭和四六年(ワ)第一九四号事件)

一  原告

(一)  被告細田一朗は、原告に対し、一七三万三八七〇円およびこれに対する昭和四六年九月二五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(昭和四四年(ワ)第一二四号事件)

一  被告らに対する共通の請求原因

(一)  昭和四四年四月一二日午前四時二〇分ごろ、原告が肩書住居の写真業店舗兼住宅(以下単に住宅という。)で就寝中、被告堀進運転の普通貨物自動車(新一れ六一九七号、以下単に被告車という)が右住宅に飛び込み、これにより、原告所有の右住宅、自動車、写真機等を損壊した。

(二)  右事故により、原告は、つぎのとおり総額二三三万八九五〇円の損害を受けた。

1 建物損壊による損害

(1) 店舗および車庫修繕費 五三万九四九八円

(2) 店舗全体の歪調節費 六六万円

2 自動車破損による損害

(1) 修理費 五万四一六〇円

(2) 評価損 三万円

3 器具備品等の損害

(1) ウインドーケース一個 二万四九〇〇円

(2) 二分間写真機一台(含運賃) 三八万五〇〇〇円

(3) 電気看板その他一式 六万七〇七〇円

(4) ウインドー内商品 一一万一七三三円

(5) 雑費 二万九五五〇円

4 休業による損害 九万一九五九円

原告は、本件事故により、昭和四四年四月中は一四日間、写真店の休業を余儀なくされた。

原告の昭和四三年四月分売上は、五七万五三八四円で、その年間の荒利益率は四三・四パーセントであり、また、当時の稼働率は八割、値引率は一・四パーセントであつたから、これにより右休業による損害を計算するとつぎのとおりとなる。

575,384円×43.4(%)×14/30(日)×0.8×(1-1.4/100)=91,959円

5 慰藉料 四万円

被告車は、早朝、原告およびその家族らが就寝中の寝床まであと一歩の場所に飛び込み、原告らの生命を著しく危険にさらし、かつ、本件事故により、原告の家屋等は破壊され、原告はその営業を一時休業しなければならなかつた。右のような事情に鑑み、原告の本件事故によつて蒙つた精神的苦痛による損害として、四万円の慰藉料を請求する。

6 弁護士費用 三〇万五〇八〇円

本件事故につき被告らは誠意ある態度を示さないので、原告は、やむなく本訴の提起および遂行を弁護士塩津務に委任し、その報酬として、請求額の一割五分にあたる三〇万五〇八〇円を、第一審判決の言渡と同時に支払うことを約し、同額の債務を負担した。

(三)  原告は、本件事故による前記損害につき、昭和四四年六月一七日、日産火災海上保険株式会社より三〇万円の支払を受けた。よつて、原告は、右損害残額二〇三万八九五〇円の損害賠償請求権を有する。

二  被告堀進および同根本栄一郎に対する請求原因

(一)  被告堀進の責任原因

本件事故は、被告堀進運転の被告車が原告の住宅に飛び込んで発生したものであり、右の経緯からみて、同被告に過失があり、民法七〇九条の責任を負うべきことは明らかである。

(二)  被告根本栄一郎の責任原因

1 被告根本栄一郎は、本業は庭石、ブロツク建材販売業を営んでいるが、右資材等の運搬に使用するため被告車等のトラツクを所有していた関係で、ひそかに他人の依頼で他人の物件を運搬する事業をも行つていた。本件事故は、右のような事情で、同被告が細田一朗から、静岡県から新潟県へのミカンの運送を依頼されてこれを引き受け、同被告の使用人である被告堀進をして、被告車を運転させて右業務に従事させていた際、被告堀進の前記過失により発生したものであるから、被告根本栄一郎には民法七一五条の責任がある。

2 仮りに右主張が認められず、被告根本栄一郎が運転手付で被告車を細田一朗に賃貸したものであつたとしても、右のような賃貸行為が反覆的に行われるときは、それ自体一種の営利行為であつて、本来の業務に付随もしくは関連する業務行為である。また、被告車の運転者である被告堀進は被告根本栄一郎の被用者であつて、たとえ、細田一朗のもとでミカンを運搬したものであつても、その運搬行為は、被告根本栄一郎の命にもとづき、同被告との雇傭契約上の義務の履行としてなしたものであるから、右業務の執行中に被告堀進の過失によつて発生した本件事故について、被告根本栄一郎は民法七一五条の責任を負うべきである。

(三)  よつて、原告は被告堀進および同根本栄一郎に対し、前記二〇三万八九五〇円およびうち弁譲士費用を控除した一七三万三八七〇円に対する本訴状送達の日の翌日である昭和四四年七月一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による滞延損害金の支払を連帯してなすことを求める。

三  被告根本美江に対する請求原因

(一)  原告は、被告根本栄一郎に対して前記の損害賠償請求権を有するものであるところ、同被告は、原告に対し、無資力であるかのようにみせかけて、原告に対する右債務を免れようと企て、原告を害することを知りながら、本件事故発生後である昭和四四年五月七日、その所有にかかる別紙物件目録記載の各不動産について、被告根本美江に対し、贈与を原因とする所有権移転登記手続をなした。

(二)  しかして、被告根本美江と同根本栄一郎とは夫婦であり、右両名は共謀して、前記登記をするにあたり、その贈与契約を本件事故発生前の昭和四四年三月三〇日に成立したものとして仮装したものである。

(三)  仮りに、右贈与契約が本件事故発生前(本件債権発生前)になされたとしても、このような場合、対抗要件としての登記も本件事故発生前になされたのでなければ、詐害行為として取り消しうるものであるところ、前記登記が本件事故発生後になされたことは明らかである。

(四)  よつて、原告は、被告根本美江との間において、被告根本栄一郎と同根本美江との間の前記贈与契約を詐害行為として取り消すとともに、前記所有権移転登記の各抹消登記手続をなすことを求める。

(五)  仮りに右主張が認められないとしても、被告根本栄一郎は、被告根本美江との間に、その所有にかかる別紙物件目録記載の各不動産について、昭和四四年二月二〇日贈与契約を締結したけれども、右契約については、夫である被告根本栄一郎から妻である被告根本美江に対して贈与をなすべき必然性はなく、両者通謀のうえ、本件のような交通事故を予想して、事前に財産の保全を考え、名義上のみ贈与したことに仮装したものであるから、右贈与契約は無効であり、実体上の所有権は移転しないものである。

よつて、原告は、被告根本栄一郎に対する前記債権にもとづき、同被告に代位して、被告根本美江に対し、前記所有権移転登記の各抹消登記手続をなすことを求める。

四  被告らに対する共通の請求原因に対する答弁

(一)  右請求原因(一)の事実は認める。

(二)  右同(二)の各事実は争う。

(三)  右同(三)の事実中、原告が原告の損害につき原告主張の金額の支払を受けたとの点は知らない。

五  被告堀進および同根本栄一郎に対する請求原因に対する答弁

(一)  右請求原因(一)の事実中、被告車が原告の住宅に飛び込んだことは認めるが、その余は争う。

(二)  右同(二)の各事実は争う。

本件事故は、青果物販売業者である細田一男が、庭石、ブロツク建材販売業者である被告根本栄一郎から、運転者である被告堀進とともに被告車を借り受け、右細田において、被告堀進に被告車を運転させて、これに同乗し、静岡県内からミカンを運搬途中に発生したものである。

したがつて、一般的には、被告根本栄一郎は被告堀進の使用人であつたけれども、右のように、細田一朗が被告車を被告堀進とともに借り受けていた期間中は、被告堀進に対する実質的な指揮監督関係は、被告根本栄一郎から細田一朗に移つていたものである。また、被告堀進は、本件事故発生当時、細田一朗の青果物販売業のための運搬業務に従事していたものであり、被告根本栄一郎の事業を執行していたものではない。したがつて、本件事故について、被告根本栄一郎が民法七一五条の責任を負うべき理由はない。

六  被告根本美江に対する請求原因に対する答弁

(一)  右請求原因(一)の事実中、原告主張の日にその主張のような登記手続をなしたことは認めるが、その余は否認する。

(二)  右同(二)の事実中、被告根本美江と同根本栄一郎とが夫婦であることは認めるが、その余は争う。

(三)  右同(三)および(五)の各事実はすべて争う。

(四)  被告根本栄一郎と同根本美江との間に、本件各不動産の贈与契約がなされ、かつ、農地について県知事から所有権移転の許可があつたのは、いずれも本件事故発生前のことであり、原告主張のような詐害行為または通謀虚偽表示の事実はない。

(昭和四六年(ワ)第一九四号事件)

一  請求原因

(一)  昭和四四年(ワ)第一二四号事件一の(一)と同旨。

(二)  原告は、右事故により、つぎのとおり総額二〇三万三八七〇円の損害を受けた。

以下、損害額については、昭和四四年(ワ)第一二四号事件一の(二)の1ないし5と同旨。

(三)  前記損害のうち、原告は、日産火災海上保険株式会社より本件事故に対し三〇万円を受領したので、損害残額は一七三万三八七〇円となつた。

(四)  本件事故は、堀進運転の被告車が原告の住宅に飛び込んだことにより発生したものであり、右堀に過失があつたことは明らかである。しかして、被告細田一朗は青果業を営む者であつて、本件事故は、同被告の貨物であるミカンを静岡県から新潟県に運搬中発生したものであり、その道中、同被告が堀進を被告車の運転者として同行し、同人を同被告の指揮命令に従わせ、その運転に従事させていたものである。したがつて、被告細田一朗は原告に対し、民法七一五条により、本件事故による前記損害を賠償すべき義務がある。

(五)  よつて、原告は被告細田一朗に対し、右損害金一七三万三八七〇円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四六年九月二五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は知らない。

(三)  同(三)の事実は知らない。

(四)  同(四)の事実中、被告細田一朗が堀進に対して指揮命令していたとの点を争い、その余の点はすべて認める。

第三証拠〔略〕

理由

第一  昭和四四年(ワ)第一二四号事件

一  被告らに対する請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、被告堀進の責任原因および本件事故の態様について検討するのに、〔証拠略〕によれば、本件事故当時、被告堀進は、被告車を運転して、歩車道の区別のない国道八号線を柏崎市方面から長岡市方面に向つて進行中、制限時速四〇キロメートルの地域を時速約六〇キロメートルの高速度で進行していたため、道路前方左側から黒い犬が飛び出したのを発見してこれを避けようとしてハンドルを右に切つたが、運転操作を誤り、被告車の進路右側を道路からややはみ出して進行させ、右国道に面して建つていた原告方住宅階下の玄関、車庫等に被告車前部を突入させた状態で同車を停止させたこと、原告方は、二階建の住宅兼写真店の店舗であるが、国道に面した玄関を入つた部分が店舗となつており、玄関の両脇には、商品等を陳列したウインドーがあり、家屋の長岡市寄りの端には国道に接着して車庫があり、当時原告所有の自動車一台が格納されていたこと、前記のように被告車が突入したことにより、玄関やウインドーなどが破壊され、車庫や格納中の自動車の各一部に損傷を受けたほか、店舗の大部分が大破し、店舗内の器具備品、商品等の相当部分も損壊あるいは使用不能の状態となつたことが認められ、右認定を覆えずに足りる証拠はない。

右の事実によれば、被告堀進の過失によつて本件事故の発生したことは明らかであり、同被告は、民法七〇九条により、これによつて生じた原告の損害を賠償すべき義務がある。

三  つぎに、被告根本栄一郎の責任原因について検討する。

〔証拠略〕によれば、被告根本栄一郎は、本件事故当時、庭石およびブロツク建材販売業を営んでおり、右事業のため被告堀進ほか一名を雇傭し、被告車(四トン積、被告根本栄一郎は、同車を太平興業株式会社から代金(月賦)完済まで同会社の所有権留保付で買い受けていたが、本件当時、代金未完済のため、同車を所有してはいなかつた。)および六トン半積の他の一台の普通貨物自動車を所持して、庭石およびブロツク建材などの運搬をしていたが、被告根本栄一郎は、本件当時ごろから数回にわたり、本来の右事業のほかに、青果物販売業者の依頼で、同被告の所持車を提供して県外からまたは県外への青果物の運送を行い、それによつて利益をえたことがあつたこと、青果物販売業者である細田一朗は、被告根本栄一郎から、たまたま、同被告の許で使用している貨物自動車が遊んでいるときは利用してくれるようにとの話をもちかけられたことがあつたところ、その話のあつた二、三ケ月後の昭和四四年四月一〇日ごろ、静岡県から新潟県へ右細田の商品であるミカンを運送するため、同人所有の貨物自動車一台のほかにもう一台の貨物自動車が必要となつたので、同日午後三時ごろ、同被告方に赴いて、同被告に右の事情を告げ、同被告から、右の目的のため、被告車と運転手である被告堀進を三日間の予定で借り受けたこと、その際、右借受けの資料等について特に話合いは行われなかつたが、右細田から被告根本栄一郎に対して一定の報酬が支払われることについて右両者間に暗黙の了解があつたこと、被告堀進は、被告根本栄一郎から「注意して運転するように」との注意を受けて、直ちに被告車に右細田を同乗させて出発し、新潟県内において、細田の使用人の運転する細田所有の貨物自動車一台と合流し、両車は同月一一日午前中に静岡県内の目的地に到着してミカンを積み込み、同日昼ごろ両車とも新潟県へ向けて出発したが、途中、被告堀進運転の被告車が細田所有の自動車に遅れて本件事故現場にさしかかつた際、前記のような過失で本件事故を起したこと、右両車の走行中、右細田は、もつぱら同人の所有車に同乗して同行し、運転手の交代、休憩などについて被告堀進らに指示を与えており、被告車の運転は被告堀進のほか細田の使用人が数回同被告に代つてしたことがあつたが、同被告が細田の所有車に乗つたことはなかつたこと、右走行中の被告車の燃料費は、被告堀進が被告根本栄一郎のチケツトを使用して支払い、被告堀進の食事代も同被告が自ら負担し、また、右のミカン運送による同被告に対する報酬はその後被告根本栄一郎から支払われたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右の事実によれば、被告根本栄一郎の本来の事業は、庭石およびブロツク建材販売業であるところ、被告堀進は、本件当時、直接的には、青果物販売業者である細田一朗の指揮命令にもとづき同人の商品の運送業務に従事していたことが認められる。しかしながら、被告根本栄一郎は、本件当時から、本来の事業のほかに、本件と同様に青果物販売業者の依頼でその所持する貨物自動車を利用して、数回にわたり青果物の運送を行なつて利益を得ており、本件の細田一朗に対する被告車の貸与も右と同様の目的でなされたものと認められ、この点で、同被告の本来の事業に付随もしくは関連する業務行為と解する余地があるのみならず、本件におけるミカンの運送について、被告車の運転には、主として被告根本栄一郎の被用者である被告堀進が従事していたものであるところ、細田一朗に対する被告車の貸与は三日間という短期間のもので、被告車の使用にともなう燃料費等の広費は被告根本栄一郎の側で負担し、被告堀進に対しては被告根本栄一郎においてもあらかじめ運転上の注意を与えるなどしており、同被告は、間接的には、被告堀進を通じて被告車に対する運行上の支配関係を維持し、右のような関係で、被告堀進に対して一定の指揮監督権が及んでいたものと認められる。そうだとすると、被告堀進は、被告車を運転して、前記細田一朗の業務の執行と競合して、被告根本栄一郎の業務をも執行中、前記過失によつて本件事故を発生させたものと解されるので、被告堀進の使用者である被告根本栄一郎が民法七一五条の責任を負うべきことは明らかである。

四  本件事故の結果、前記二において認定したように、原告方住宅、器具、商品等が損壊されたことにより、原告の蒙つた損害について検討する。

(一)  建物損壊による損害 四八万五五四九円

〔証拠略〕によれば、原告は、建物の損壊部分を復元するために、車庫のシヤツターの取換費用として三万一〇〇〇円、店舗修理等の木材等購入費として五万三七八五円、玄関、店舗内、車庫の壁などの左官関係の工事費用として一二万一五〇〇円、玄関の建具類等の購入費として一〇万四六〇〇円、下屋の屋根、雨樋、煙突等の修理費として三万三八〇〇円、ウインドーの黒布地張り費用として三〇〇〇円、大工工事にともなう封などの費用として八七九八円、電気器具および同工事費用として五万八七六五円、カーテン工事代として一万一二五〇円、店舗内の塗装代として九〇〇〇円、大工工事等の手間代として三〇人分(一人二五〇〇円相当)七万五〇〇〇円、後片付等を含む人夫の手間代として二〇人分(一人一四五〇円相当)二万九〇〇〇円、合計五三万九四九八円の支出を余儀なくされたものと認められる。しかして、本件損壊部分は建物の一部であり、証人嶋田章の証言によれば、同部分の経年減価率は一〇パーセント程度をもつて相当と認められるから、右合計額から一〇パーセントの減価額を控除することとし、結局、本件建物損壊による損害額は四八万五五四九円と認める。〔証拠略〕もいまだ右認定を覆えすに足りず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

なお、原告は、店舗全体の歪調節費として六六万円を請求しているけれども、右請求額の記載のある〔証拠略〕によつても、これを認めるに足りず、かえつて、証人嶋田章の証言によれば、歪調節費としては、原告主張のような高額を要しないものであり、これを前記認容の大工もしくは人夫の手間代(いずれも見積額である)に含まれるものと解してもあながち不当とは認められないから、右費用は独立の損害としては認めないこととする。

(二)  自動車破損による損害 五万三八〇〇円

〔証拠略〕によれば、本件事故により原告所有の自動車が破損したため、その修理費用として五万三八〇〇円を要したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、原告は、右自動車の評価損として三万円を請求しているけれども、前掲各証拠によつても、右評価損の算定根拠となるべき資料が明らかでなく、他にこれを認むべき証拠がないので、右請求は採用しない。

(三)  器具備品等の損害 五四万四六〇八円

〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により器具備品等を破損された結果、アルミシヨーケース購入費として二万四九〇〇円を支出し、二分間写真機一式の購入費として運賃を含め三八万五〇〇〇円を支出したこと、また、電気看板等備品類につき六万七〇七〇円相当の損失があり、ウインドー内の商品等に一一万一七三三円相当の損失があり、以上合計五八万八七〇三円の損害を蒙つたことが認められるが、右の器具備品等の損害額は本件事故当時の部品の交換価格によつて算出したものであり、経年減価率を一〇パーセント程度と認めるのが相当であるから、右合計額から一〇パーセントの減価額を控除すると、右の損害額は五二万九八三三円となる。

その他、前掲証拠によると、原告は、本件事故により、雨合羽、アノラツク、長靴等雑品類合計二万九五五〇円の損害を蒙つたことが認められるが、これらの損害額は事故当時の新品の交換価格によつて算出したものであり、減価率を五〇パーセント程度と認めるのが相当であるから、右合計額から五〇パーセントの減価額を控除すると、右の損害額は一万四七七五円となる。

(四)  慰藉料 四万円

前記二で認定したような本件事故発生時の状況に加え、〔証拠略〕によれば、本件事故当時、原告は、その妻とともに原告方階下の部屋に就寝していたところ、早朝、被告車が原告から約二、三メートル離れた地点まで飛ひ込んできたもので、腰の抜けるような驚愕を感じたこと、また、本件事故により、写真店の営業を一時休業せざるをえなかつたことなどが認められ、右のような諸般の事情を考慮し、原告の本件事故によつて蒙つた精神的苦痛を慰藉するには、四万円を下らない財産上の給付をなす必要があるものと認める。

なお、原告は、休業による損害として九万一九五九円を請求しており、前記のように、原告は、本件事故のため一時写真店の営業を休業せざるをえなかつたことが認められるけれども、〔証拠略〕によれば、本件事故のあつた昭和四四年四月の原告方の営業売上高は、他の月に比して決して低いものではなかつたことが認められ、また、休業損害算出の基準となる営業経費の支出割合および営業に対する原告の寄与率(写真店の経営には原告の妻の労働も貢献していることが認められる)等もこれを認めるに足りる証拠はなく、〔証拠略〕も、原告主張の損害額を認めるに足りない。してみると、原告主張の休業損害は、本件証拠によつてはにわかに算定できないというべきであるが、休業による損失については、前記の慰藉料額の算定にあたり、その一要素として一定の考慮をした。

(五)  よつて、原告の損害は、合計一一二万三九五七円となるところ、原告が日産火災海上保険株式会社より、本件事故に関し三〇万円の支払を受けたことは自ら認めるところであるから、これを控除すると、右損害残額は、八二万三九五七円となる。

(六)  弁護士費用 一〇万円

〔証拠略〕によれば、原告は、本訴の提起および遂行を弁護士塩津務に委任し、その報酬として原告主張のとおりの金員の支払を約したことが認められるが、原告の前記請求認容額、証拠蒐集の程度等本件訴訟にあらわれた諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに請求しうるのは、一〇万円であると認める。

五  よつて、原告の被告堀進および同根本栄一郎に対する本訴請求のうち、連帯して、九二万三九五七円およびうち弁護士費用を除く八二万三九五七円に対する本訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四四年七月一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、理由があるのでこれを認容し、その余は失当として棄却することとする。

六  前記のように、原告は、被告根本栄一郎に対して損害賠償請求権を有することが明らかであるところ、原告の被告根本美江に対する請求について検討する。

原告の被告根本美江に対する請求原因(一)の事実中、原告主張の日にその主張のような登記手続がなされたことは、当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、被告根本栄一郎は、別紙物件目録記載の各不動産を所有していたところ、昭和四四年一月ごろ、同被告の営む庭石等の販売業の事業が思わしくなく、その数年来、同被告が生活費をほとんど家庭に入れなかつたため、同被告の妻である被告根本美江は、子供三人と母親を抱えて、将来の生活に不安をもち、また、そのころ、夫の被告根本栄一郎の交際していた男が、女遊びが原因でその所有財産の大半を失つたことがあつたところから、自分の実兄などを交えて同被告と相談した結果、同被告所有の前記不動産について、すべて贈与を受けることになり、そのころ、被告根本美江と同根本栄一郎との間にその旨の口頭の約束がなされたこと、そして、同じころ、被告根本美江は、新潟市農業委員会の職員である星七郎に対して、前記不動産のうち各農地について、新潟県知事に対する農地法三条による被告根本栄一郎から被告根本美江への贈与による所有権移転の許可申請手続をしてくれるように依頼し、その結果、右星において、同年二月二〇日付で右許可申請をなし、右申請に対し、同年三月二四日付で新潟県知事の許可のあつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、被告根本美江は、別紙目録記載の各不動産について、昭和四四年一月ごろ、被告根本栄一郎から真実贈与を受けたものと認められ、かつ、右贈与契約の時期は、原告が被告根本栄一郎に対して前記の損害賠償請求権を取得した時(本件交通事故発生時の同年四月一二日)より前であることが明らかであるから、原告主張の詐害行為および通謀虚偽表示はいずれも成立しえないというべきである。

なお、前記各不動産の右贈与を原因とする所有権移転登記の時期が、原告の右損害賠償請求権発生の後であることは明らかであるけれども、本来、詐害行為の存否は、債務者の財産の減少を目的とする法律行為そのものによつて判定すべきものであり、登記の有無はその行為の成立に特に関係ないものであるから、対抗要件としての登記のなされた時期如何は、詐害行為取消権の成否に対して消長を来すものではないということができる。

したがつて、これらの点に関する原告の主張はすべて理由がなく採用できないから、原告の被告根本美江に対する本訴請求は失当として棄却することとする。

第二  昭和四六年(ワ)第一九四号事件

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  同(四)の事実中、被告細田一朗が堀進に対して指揮命令していたとの点を除き、その余の点はすべて当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、被告細田一朗が、本件事故当時、堀進を被告車の運転者として同行し、同被告の貨物であるミカンの運搬に従事させていた際、積荷や運転手の交代、休憩等に関し、堀進に対して指揮命令をしていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右によれば、被告細田一朗が、堀進を使用して、同人に被告車を運転して同被告の業務に従事させていた際、右堀進の過失によつて本件事故が発生したものと認められるから、被告細田一朗は民法七一五条の責任を負うべきことは明らかである。

三  〔証拠略〕によれば、原告方は、二階建の住宅兼写真店の店舗であるが、国道八号線に面した階下の玄関を入つた部分が店舗となつており、玄関の両脇には商品等を陳列したウインドーがあり、家屋の前面の東端には右国道に接着して車庫があり、本件事故当時原告所有の自動車一台が格納されていたこと、被告車が原告方へ飛び込んだことにより、玄関やウインドーなどが破壊され、車庫や自動車の各一部に損傷を受けたほか、店舗の大部分が大破し、店舗内の器具備品、商品等の相当部分も損壊あるいは使用不能の状態となつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

原告は、右のような本件事故の結果、つぎのように、合計一一二万三九五七円の損害を蒙つたことが認められる。

以下、昭和四四年(ワ)第一二四号事件理由四の(一)ないし(四)と同旨。

四  原告が日産火災海上保険株式会社より、本件事故に関し三〇万円の支払を受けたことは自ら認めるところであるから、前記損害合計一一二万三九五七円からこれを控除すると、右損害残額は八二万三九五七円となる。

五  よつて、原告の被告細田一朗に対する本訴請求のうち、八二万三九五七円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四六年九月二五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、理由があるのでこれを認容し、その余は失当として棄却することとする。

第三  よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林五平)

(別紙) 物件目録

新潟市割野字舘屋敷弐九壱番壱

一田 壱〇五m2(壱畝〇弐歩)

同所参弐四番弐

一田 壱七五m2(壱畝弐参歩)

同所同番参

一畑 九四五m2(九畝壱六歩)

新潟市割野字虫見堂四弐四番弐

一田 壱弐五m2(壱畝〇八歩)

同所四四壱番壱

一畑 七四〇m2(七畝壱四歩)

同所同番弐

一田 弐弐八m2(弐畝〇九歩)

新潟市割野字諏訪ノ木五参弐番

一畑 壱〇五m2(壱畝〇弐歩)

同所五参五番弐

一畑 壱四八m2(壱畝壱五歩)

同所五参五番参

一畑 壱弐弐m2(壱畝〇七歩)

同所五参九番甲

一畑 六・六壱m2(弐歩)

同所五四〇番

一 宅地 七七参・五五m2(弐参四坪)

同所同番地

一 木造板葺平家建居宅 家屋番号割野五壱番

弐九・四五m2(八坪九合壱勺)

附属建物

1 木造瓦葺平家建物置

弐四・七九m2(七坪五合)

2 木造杉皮葺平家建物置

壱六・五弐m2(五坪)

3 木造杉皮葺平家建物置

九・九壱m2(参坪)

新潟市割野字舘屋敷弐九弐番弐

一畑 六参四m2(六畝壱弐歩)

新潟市割野字立野尻参四四番

一田 五〇五m2

同所参四九番

一田 弐七七m2

新潟市割野字諏訪ノ木五参八番参

一畑 参九m2

新潟市割野字立野尻七九六番

一田 九八壱m2

同所七九九番

一田 九八壱m2

同所八〇〇番

一田 九八壱m2

新潟市割野字南尾仲野八九〇番

一田 四七六m2(四畝弐四歩)

同所八九弐番

一畑 弐九m2(九歩)

同所八九五番

一田 四壱六m2(四畝〇六歩)

同所八九六番

一田 壱八八m2(壱畝弐七歩)

同所九四五番壱

一畑 壱〇〇壱m2(壱反〇畝〇参歩)

同所九四五番弐

一田 壱四八m2(壱畝壱五歩)

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